採用

「課長代理,今日の面接ですが,受験者の方から先ほど連絡があり,辞退したいと・・・」

 

面接の1時間前のことだ。部下が困惑気味に報告してきた。
履歴書にザッと目を通して経歴や年齢等から問題ないと判断し,余程のことがない限り採用するつもりでいたところだった。


今年の3月に前任者が辞めて以降,後任を探し続けている。
待遇はあまり良くない(特に給料)。人が集まらない主な原因はたぶんそれだ。
それでも前任者が辞める1ヶ月前には一人応募があり面接を行った。
面接のやり取りで,その人は7月から別の企業で働くことが決まっていたため,それまでの繋ぎのバイト感覚で応募してきたことが分かった。
背に腹は替えられない。取りあえず採用することにして,すぐに後任の後任を探しはじめた。

次はなかなか見つからなかった。

こちらのストライクゾーンとキャパシティを試してくるような数々の応募書類の中からようやく一通を拾い上げ、面接をすることにした。

履歴書には元日系の某航空会社勤務とあった。

 

若い頃、航空会社に勤める女性達とよく飲み会をやっていた。その中には当然日系大手の2社も含まれていたが、そのうち1社と何故か相性が悪かった。

応募者はその会社出身だった。

 

面接では待遇について念入りに確認した。問題ないとの返事であったので,採用通知を送ることにした。

返事が来ない。

不審に思った部下が電話したところ,勤務条件を見直して親にも相談した結果採用を辞退したいとのことだった。

 

振り出しに戻った。
また募集をかけた。

 

前回応募してきた人と同じ日系大手航空会社を辞めた人から履歴書が送られてきた。
嫌な予感がしたが躊躇していられる余裕も正直なところ無い。


再び面接の日時を調整して,履歴書に改めて目を通していたところで冒頭に至る。

 

 

「辞退の理由はなんと?」

「他で就職先が決まったそうです。」

「仕方ない。また募集をかけましょう。」

部下にそう言って席を立ち,自販機コーナーに向かった。
社屋裏手、屋外にある自販機は,35度を越える熱気にも異常を来すことなく,静かにピカピカと値段表示を光らせている。
透明なコーラが目にとまり,ボタンを押す。
その場で一口含むと,言いようのないドロリとした疲れが透明な泡にとけ込んでコーラが黒く濁った気がした。
セミの鳴き声が耳に響く。